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1-18 消えた美由紀 2

last update 最終更新日: 2025-06-10 20:44:41

「航君…連絡取れなかったんだね?」

「ああ……。どこへ行ったんだか……」

再びため息をつくと、航は修也を見た。

「ところであんた、一体誰なんだ? あの鳴海翔に随分似ているみたいだが?」

「航君。この人は……」

朱莉が紹介しようとすると、修也は言った。

「いいよ、朱莉さん。自分で言うから」

修也は朱莉に声をけると、改めて航に向き直った。

「初めまして。僕は各務修也と言います。君の言っている翔とは、いとこ同士で今は仕事でカルフォルニアに行っている翔の代わりに副社長代理を務めています。どうぞよろしく」

そして口元に笑みを浮かべた。

「へえ~各務さんっていうのか……。あんたは鳴海翔と違って、随分良識がありそうだな。俺は安西航。朱莉の知り合いだ。よろしく」

苦笑する修也。

「どうやら安西君は……翔のことをあまりよく思っていないみたいだね?」

「当然だ。何故ならあいつは朱莉を……」

そこまで言いかけて航は口を閉ざした。

(そう言えば契約婚の話は内緒にしておかなければならなかったんだよな)

すると修也は笑顔を見せた。

「もしかして契約婚の話かな? でもその話なら僕はもう知っているから気にする必要はないよ?」

「え? そうなのか? 朱莉」

「うん、そうなの。でも、それより航君。まだ彼女から連絡は来ないの?」

朱莉は尋ねるも、航の携帯には着信が入っていない。

「まだ……連絡は来ていない……くそ!」

航は髪をかき上げながらスマホを見つめた。

「安西君。彼女は一人暮らしなのかい?」

修也が航に尋ねてきた。

「ああ。一人暮らしだけど?」

「もしかすると先に帰ってしまったんじゃないかな?」

修也の言葉に航は首を振った。

「いや、まさか。だって俺達は2人で一緒に映画を見に来たのに、先に帰るなんて……。まだ昼飯も食べていないのに」

「もしかすると、さっきの安西君と朱莉さんを見てしまって……ショックを受けて先に帰ってしまったってことは考えられないかな?」

「え……?」

朱莉は驚いたように航を見た。

「まさか…」

航は呟いた。だが……可能性は大いにある。

「俺……行かないと……」

美由紀の悲し気な顔が脳裏をよぎる。

「うん、そうだね」

航は朱莉を見た。

「朱莉、まだ…連絡先、変わっていないのか?」

「連絡先? うん、変わっていないよ。あ、でもね、引っ越しはしたのよ? 同じ六本木だけど」

「そっか…
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